近年、オンラインでの予約が手軽にできるようになり、便利になった反面、直前の予約キャンセルや無断キャンセル(無連絡キャンセル)も増加し、悩まれている事業者の方も多いかと思います。
しかし、キャンセル料の設定は、消費者契約法等に基づいたうえで設定する必要があります。内容を把握しないままキャンセル料を設定すると無効になってしまう可能性もあるため、事業者の方は本記事を参考にしていただければ幸いです。
本記事では、キャンセル料について、消費者との予約(契約)に関する考え方や、キャンセルポリシーやキャンセル料金の設定についてご紹介していきます。
そして、キャンセルが発生した際の対処法についても解説します。
予約キャンセルとは?
はじめに、消費者契約法に基づいた、予約キャンセルの基本的な考え方とキャンセル料を設定する上でのルールについて解説します。
予約キャンセルの考え方と消費者契約法
予約キャンセルは、事業者(店舗)と消費者(お客様)が交わした契約(消費者契約)を解除する行為です。
事業者と消費者が契約をするとき、両者の間には持っているサービス内容などの情報の質・量に差が生じます。このような状況を踏まえて消費者の利益を守るため、平成13年4月1日に消費者契約法が施行されました。
消費者契約法の基本ルール
消費者契約法は、契約の「取消」と「無効」の二つを基本に消費者を保護します。取消は、不当な勧誘によって結ばれた契約を後から取り消すことができるとするものです。無効は、消費者が一方的に不利益を被る場合に契約条項を無効にできるとするものです。
キャンセル料は、消費者契約法第9条に考え方の基本が定められています。第1項には、契約の解除に伴う損害賠償や違約金について、事業者に生じる平均的な損害の額を超える金額を請求した場合、超えた部分について無効となることが示されています。また、第2項には、損害賠償金を支払う期日を超えて支払われない遅延損害金について、年利14.6%を超える部分については無効と定められています。
つまり、キャンセル料は事業主が自由に設定できるわけではなく、平均的な損害額の範囲や金利に抑えられています。
キャンセル問題増加の背景
・お客様とお店とのコミュニケーションの欠如
インターネット上の予約システムの普及により、お客様が気軽に予約できるようになった反面、キャンセルについても罪悪感なくできるようになったことが、キャンセル問題が増加している最大の要因であると考えております。
お客様の側に、キャンセルによりお店に迷惑がかけてしまう、損害を与えてしまうという意識が減ってきているのではないでしょうか。
・システムの不備
インターネット上の予約システムが普及している宿泊施設等での予約と比べ、飲食店の場合、①事前決済システムの導入、②キャンセル規約の設定が遅れています。
そのため、後述するとおり、現実にドタキャン、無断キャンセルという問題が生じた場合に、お店側が生じた損害をお客様から回収するのが非常に難しいという現状があります。
キャンセルする側から見れば、キャンセルしても何等のペナルティも受けないで済むという現状が、キャンセル問題を増加させる一因となっていると考えられます。
キャンセルの法的問題点
民事上の損害賠償責任
予約といっても、法律的には、お客様が予約した時点で、お客様と事業者との間で「契約」が成立します。
そのため、お客様が事業者との契約を一方的に破って事業者に損害を与えた以上、法的には、事業者はお客様に損害賠償を請求することができるということになります。
損害賠償請求の難しさ
法的に損害賠償請求権が認められるとしても、事業者とって損害を回収するのは至難の業で、泣寝入りをしているというのが現状ではないでしょうか。その理由としては以下のようなものがあります。
①交渉・裁判にコストがかかること
お客様が損害賠償請求に応じてくれる場合はいいですが、そうでない場合、損害を回収するには交渉や裁判による必要があり、このような時間・費用コストが、事業者が損害賠償請求を断念する要因になっていると考えられます。
②相手方の特定が困難な場合があること
電話やメール予約の場合、予約者が事業者に対して、真実の個人情報を提供するとは限りません。このような場合、損害賠償請求の相手方を特定することが現実的に非常に困難であると言わざるを得ません。
③お客様相手に事を荒立てたくないという意識が働くこと
事業者側もお客様あっての商売ですので、キャンセルをしたとはいえお客様相手に事を荒立てたくないという意識は当然働きます。
無断キャンセルを減らすための施策
予約画面でキャンセル料に関する規約を明示する
利用者が予約するとき、キャンセル料に関する規約をはっきり伝えましょう。万が一キャンセルになった場合、キャンセル料が回収しやすくなりますし、利用者も無断キャンセルしづらくなります。
ネットからの予約であれば予約画面に規約の内容を表示し、電話からの予約であればメールで伝えることが望ましいです。
予約時に必ず電話番号とメールアドレスを確認する
予約の連絡が入ったときに、必ず相手の電話番号、メールアドレスは控えておきましょう。心理的プレッシャーを与えることができるので、無断キャンセルに対する抑制に繋がるからです。
予約日の数日前に通知する
中には予約したことをうっかり忘れてしまうお客もいるようです。この場合、悪意はないけれど結果的に無断キャンセルしてしまう可能性があるので、予約日の数日前にメールや電話で確認の連絡を入れましょう。
万が一キャンセルになっても、早い段階でわかっていれば対処しやすくなります。
前日や当日にキャンセルされて「キャンセル料」が発生するケースが非常に多いです。ところが無断キャンセルされて連絡がつかなくなったりして、キャンセル料の踏み倒しの被害に遭う可能性も高いのが現状です。
キャンセル料回収の流れや弁護士に依頼するメリットをご紹介します。
1.キャンセル料請求の流れ
1-1.メール、電話、郵便による督促
事業者側で未払いになっているキャンセル料を請求する場合、まずは電話や郵便、メールなどでキャンセル料の督促を行いましょう。
ネットで予約を受け付けている場合には、登録されたメール宛てにキャンセル料の金額と支払期限、入金先を伝えます。それでも支払がない場合、電話をかけたり普通郵便で督促状を送ったりしてみましょう。この段階で支払ってくる人も多いので、手間を惜しむべきではありません。
1-2.内容証明郵便で請求する
上記の穏便な方法によっては支払いを受けられない場合には、内容証明郵便を使って督促状を送ります。そこには未払いになっているキャンセル料と遅延損害金の合計を一括払いするように要求し、相当期間内に入金がない場合には法的措置をとる可能性があることも記載しておきます。これにより、相手がプレッシャーを感じて支払いに応じることがあります。
1-3.少額訴訟、支払督促を検討する
内容証明郵便を送付しても音沙汰がない場合などには、少額訴訟や支払督促などの裁判手続きにまで進めるかどうか、費用対効果も踏まえて検討します。
2.キャンセル料請求の注意点|消滅時効
キャンセル料を請求するときには「時効」に注意が必要です。
一般的な民事債権の時効は10年ですが、飲食店や宿泊施設のキャンセル料には「1年」の短期消滅時効が定められているからです。キャンセル料も、1年以上放置していると時効にかかって請求できなくなってしまいます。
時効を止めるには、内容証明郵便による督促が有効です。取り急ぎ内容証明郵便で請求をすれば6か月間時効が停止します。その間に支払督促や訴訟などの裁判手続きをとれば、確定的に時効を中断させることができます。
3.キャンセル料請求を弁護士に依頼するメリット
事業者において、自社スタッフがすべての債権回収を行うのは現実的ではありません。
電話、メール、手紙での督促までは自分たちでできても、内容証明郵便の発送や交渉、訴訟手続きなどは専門のスキルを持った弁護士に依頼すべきです。
弁護士であれば、事業者の規模や状態、キャンセル料の金額、相手の態度などの状況に応じてもっとも費用対効果の高い方法を選択して的確に債権回収を進められます。
キャンセル料の踏み倒しにお悩みの事業者の方は、是非とも一度ご相談下さい。
まとめ
無断キャンセルによる被害を抑えるためにも、日頃から対策を練っておくべきでしょう。事業者が無断キャンセルによる問題を改善する上で、本記事を参考にしていただければ幸いです。
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